記憶
おばあちゃんが危ない。
父からそう聞かされても、仕事の関係ですぐには病院へ行けなかった。父は、もうわかっていたことだから気に病まないように、とだけ私に告げた。
二日後、やっと取った休みでICUを訪ねた。注射のせいだろうか、幾分浮腫んだ顔付きの祖母は、目をキョロキョロと動かし、物言いたげにテーピングで固定された口をモゴモゴと動かした。気管挿管された口からは音は漏れず、ただただ不思議そうに私を見ていた。まるで私になにが起こったのと言っているようだった。
おばあちゃん、ごめんね。
不思議とその言葉が繰り返し漏れた。
なにに対して謝っているのか、
自分でもわからなかった。
神さま、おばあちゃんの素敵な記憶だけは消さないでね。どうか、記憶だけは。お願いね。
それ以来、手が空くたびに思うことはその1つである。